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視線入力ふたたび

タブレットでコミュニケーションエイド

youtubeの動画はこちら 4分40秒 音が出ます

0 はじめに

4年ぶりに視線入力をやっています。

前回は、手作りのカメラとeyewriterをベースに改造したソフトウエアと、眼科にある様な顔面固定台を自作して使用し、見るから実験室レベルでした。しかしそれでも眼球運動でマウスカーソルを操作しまばたきで左右のクリック、ダブルクリックなどでき、マインスイーパー(Windowsの地雷ゲーム)ができました。詳しくは こちらをどうぞ。

当時ちょうど格安の視線入力関連機器が複数の会社から発表された時期でした。これらと正面から勝負できるわけもありませんので、しばらく世の中が落ち着くまで様子をみることにしました。そしてその間、視線入力で使いやすいコミュニケーション関連のソフト開発に取り組んでいました。これがエンチャント文字盤です。

さてこの春、miyasukuから視線入力マウスソフトが発表されました。またかなり改善されたニューモデルのTobii4Cも好評と聞きました。視線入力を再開するにはちょうどいいタイミングのようです。

また、当院では療養介護病棟が2018年7月に開設され、在宅療護が困難になった重度な方々を受け入れはじめました。こちらもちょうどいいタイミングです。

このような経緯で視線入力に再び取り組むことしました。まずは現状を動画にまとめましたのでご覧ください。

1 準備

視線入力に取り組むためには、従来多くの調査と費用と試行錯誤が必要でした。しかし参考URLのように、島根の伊藤さんがすでに Tobii Eye Tracker 4C と miyasuku EyeConMouse を使う方法の準備や手順について丁寧にまとめて公表されています。せっかくですのでありがたくこれを参考にさせていただきました。おかげでずいぶん楽ができました。特に事情がない限り、こちらを参考にされることをお勧めします。

パソコン

パソコンの主な条件は、corei5、Windows10、USB3、メモリ4Gです。この条件に合うパソコンを探してみると当方にただ一台、FUJITSU LIFEBOOK A574/HX がありましたのでこれを使うことにしました。

このパソコンはもともとwin8がインストールしてあったのですが、win10に無償アップグレードしたものです。このような場合では再インストールディスクはwin8しかありません。ですのでHDDに故障などおきるともうwin10に戻れません。いくらなんでもこれでは困りますのでHDDのクローンを作ってこの仕事に使うことにしました。SSDが必要という情報もありましたが、高速といわれるHDDでこれで様子を見ることにしました。uefiパソコンのクローンは予想外に苦戦しましたが基本的に参考URLの方法にいくらか工夫することでできました。

後日、win10にアップグレードしたパソコンでもwin10を再インストールする方法があるらしいと聞きました。しかし既にクローンもありますし、先も急ぎますので確認していません。

Tobii 4C

日本の人が海外のamazonから取り寄せたという記事も見かけましたが、2018年4月下旬で日本amazonでも取扱がありましたのでごく簡単に入手できました。価格は約2万とすこしでした。

伊藤さんの記事のとおりあらかじめTobiiのサイトにアクセスしドライバをはじめ各種ソフトのインストールを済ませます。その後4CをUSB3端子につなぐと、体験コースツアーが始まります。

視線入力訓練ソフト EyeMoT 3D

さてここまでで最低限のインストールができました。ここからさらにソフトを追加する前にシンプルな状態で動作確認をしました。この段階で伊藤さんらのグループがお作りになったEyeMoT 3D が試せます。インストールして試したところ、全く問題なく動かすことができました。これで4Cがしっかり動いていることが確認できましたので次の段階に進めます。

この段階を省いて、予定のソフトを全部インストールしてもよろしいのでしょうが、あとで不具合が発生すると原因究明にとかく苦労します。今回のように一風変わったハードを使う場合は段階を踏んで、そのつど動作確認する慎重さが大切と個人的に思います。ご参考まで。

ただひとつ問題があるとしたら、EyeMoT 3D での視線入力テスト中は周囲の視線も無闇に集まります。大きな音には気をつけた方がよろしいでしょう。

miyasuku EyeConLT

ここから目的のひとつmiyasukuのソフトを試してみました。まずEyeConMouseの機能限定版の、EyeConLT の体験版をインストールしました。EyeConMouseはマウスの全ての機能が使えますがLTは左クリックのみ使えます。多機能ソフトにいきなり手を出して扱いに困って時間を無駄にすることはよくあることです。このような場合は扱いの楽なソフトで作り手のくせや好み、そして自分がどの程度できるのかを把握することが大切です。EyeConLTで手こずるようならEyeConMouseはかなり苦戦が予想されます。

とくに設定の方法は設定項目の少ない、EyeConLTで下見しておくことをお勧めします。どの項目をどうすれば動きがどう変わるのかを理解するとあとで楽ができます。これが目的のひとつになります。ここで取扱に習熟し注意点や間違いや誤解など解消するとよいでしょう。

miyasuku EyeConMouse

ほどよく慣れたところで、EyeConMouseの体験版をインストールしました。インストールするとデスクトップにマニュアルのフォルダーがあらわれます。かなり手間のかかったよいマニュアルだと思います。EyeConLTではマニュアルが見つからずに困りましたが、こちらを見れば疑問点のいくつかも解決できました。

現在はまだ使い方がよくわからないところもありますが一応動き始めています。やるたびに少しづつ理解が深まり、扱いがうまくなっていきます。この段階で撮影したのが上の動画です。初期段階の記録としてこれからの改善に使う予定でしたが、少し編集して、関心のある方のために公開することにしました。

2 取扱と習熟について

このように初めて使う機器では、十分時間をかけて習熟するように心がけています。また操作方法をマスターした次は、練習していく上で注意すべきことも把握するようにしています。

これは、不自由を抱えながらこれに取り組む患者さんの道ならし、道あんないをするためです。とかくありがちな失敗、苦労、間違いを全て実際にやってみて、その解決策をあらかじめ準備するところまで実際にやってみます。また練習する上で疲労の特徴と休憩の取り方も大切だと上の動画で実感しました。

私はこの仕事をよく山岳ガイドに例えて説明します。患者さんは登山客です。順調なときは登山客の能力を考慮して十分満喫していただき、山の楽しみを伝える。避けるべき危険は事前に察知しそれを避ける。天候などどうしようもない条件もあるでしょうが、与えられた条件のなかで最高のツアーを提供するのが山岳ガイドの仕事です。知識や経験や用心深さは必須です。

視線入力に関心を持つ患者さんの多くは、体力も時間も限られています。どうしたらいいかわからなくて途方に暮れている暇は患者さんにはありません。やってみたけどだめだったは冒険家にはふさわしいですが、患者さんには災難です。やはりやってよかったねとなるように、関係者には可能な限り十分な準備と綿密な計画が求められます。

やる気と体力は満点でも技能や経験も少なく山のこともよく知らない、そんな山岳ガイドでは命がいくつあっても足りません。

3 視線入力の疲労について

視線入力というと、とかく『見ればできる』と考えがちです。しかし実際やってみるとまるでちがいます。

動かすときは目的の位置にきちんと視線を移動し、動かさないときにはじっと一点を注視し続けます。目の動きはかなり強制されます。言うなる『視線の直立不動』ですこしも自由はありません。このような経験はほとんどの人にとって初めてでしょう。このリラックスとはほど遠い緊張を維持し続ける必要があります。

そして失敗するとやり直しです。これを少ない体力と気力で取り組むわけですので、患者さんが途中でへこたれるのは当然です。その際には疲労を軽くするためなどの各種助言や休憩のための配慮や工夫も必要です。しかし自分で視線入力して疲労を経験していないとこの配慮は容易ではありません。またもし、こんなわかってもらえないことになったら患者さんもかわいそうです。

また神経難病の患者さんにとって小さなスイッチを押す動作でさえ、『丸太をかついで振り回すような重労働』に相当することがあります。こんなことも周囲は理解してあげたいことです。

従来の意思伝達装置の場合と同様に、視線入力でも疲労の扱い方、つまり疲労の少ない条件さがし、が成否をきめる大きなファクタになると予想しています。これだけ完成度の高いハードとソフトが存在するのですから、『できるかできないか』の問題からその次の『続くか続かないか』の問題へ徐々に進んでいくように思っています。

4 まとめ

この視線入力装置はかなり高度で使う人ができることもかなりたくさんあります。でも初めのうちは操作に助けが必要です。もちろん多くの使う人はマニュアルなど読めないですので、『walking マニュアル』の助けが必要です。またマニュアルに書いてないが役に立つノウハウも使う人にとって助かります。不自由を持つ人が、この視線入力装置をうまく使える様になるためには、例の山岳ガイドが必要になります。

参考URL

視線入力準備関係

HDDクローン関係


2018/07/27 動画を暫定公開
2018/08/02 本文を追加

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