スイッチ操作練習用サンプル
ボールがポンポンとはねてキツツキやイノシシやチワワがでてくるテレビ番組から始まり、おもちゃとスイッチについていろいろ試しています。前回は3つのボタン操作でバナナを動かしました。今回はボタンを2つ使った方法について考えてみます。それぞれの方法にいくつかの特徴があります。ここで大事なのはどちらがよいとか悪いとか、またできるとかできないとかいう話ではなく、使うひとにとってどのような効果や意味があるか、どのように適しているか、適していないのかを考えていくことです。それでは始めましょう。
前回に引き続きバナナを動かしてみましょう。ただし今回は前回より条件の厳しいひとに使ってもらうことを想定します。
麻痺が重い人では、スイッチ操作のための動作を探し見つけるのがかんたんではありません。もし前回の取り組みのように3つの動作が見つかったとしてもそのうちひとつが日によって動いたり動かなかったりとか、だんだん調子が出てきた頃にはすっかり疲れて動かなくなってしまうなどということもありがちです。ご本人の気持ちややる気がこのようなことで萎えてしまうのも気の毒なことです。またこれしか方法がないとかほかに道具がないなどと言う理由で我慢と精神力で立ち向かうのもあまりいいやり方ではないと思います。
そこでスイッチ2つで前回と同じことに挑戦してみます。スイッチ3つの場合は上と停止と下の3種類でしたが、スイッチ2つでは上と下の2種類、ただし押している間は動きますが放すと停止するように「スイッチのルール」を変更します。この方式も多くの動画プレーヤやゲームで使われています。
前回のサンプルとの外見上の違いは、上の画像のようにボタンの数だけです。
バナナをうごかすサンプルその2 上下ボタンでバナナがうごきます。ボールが10秒間隔で落ちてきます。 まずは試しに動かしてみてください。普通の人は特に違和感なく使えると思います。
今回の2ボタンにもいくつか特徴があります。
まず3ボタンの場合よりひとつ少ない二種類のスイッチを独立して操作する身体能力が必要になります。このため身体への要求条件はやや軽くなります。また今回もこれらの動作でどんなスイッチを操作してその信号を機器に伝える方法についてはここでは扱いません。
上スイッチを押すと上に動き放すと停止します。下スイッチでは下に動き放すと停止します。この説明のように3ボタンスイッチの場合よりも仕組みが複雑でやや理解しにくくなります。知的なハードルはやや上がります。これは2つのスイッチに3つの機能を盛り込んだからです。
またこの方法では放すとすぐに止まりますので、バナナを離れたところまで動かすためにはスイッチを押し続ける必要があります。このため手のふるえなどのために押す動作の維持が苦手だと、長い距離の移動に時間や手間がかかることになります。この特徴はこのように短所になりますが使い方によって長所になります。例えばスイッチにトンと短く触るとごく少し、トントンとさわるともう少し動かせます。この方法を使うと通常の人のマウス以上の精密操作が可能になります。(仮にトントンコントロールとでも呼びましょうか)このような精密な操作は3ボタンでは大変苦手です。さらにタイミングよい操作、特に放す操作が苦手だとバナナがうまく止まらないでしょう。これらの特徴が使う人とうまく合えば苦労は少なくなりますがうまく合わないひとでは使いにくくなるかもしれません。
手順をまとめると次のようになります。まずバナナを上に動かすか下に動かすか決めます。次に上または下のスイッチを押します。ここだと思ったときにスイッチを放して止めます。目標位置から多少ずれてもここからトントンコントロールを使えば目標位置にピタリと合わせることができます。
3ボタンとの違いをかんたんにまとめると身体条件はややゆるく、動作負担はやや重く、知的負担はいくらか重めといったところでしょうか。言葉を変えると動作と知的な負担で身体条件をカバーしているとも考えられるでしょう。
スイッチ操作練習用サンプル
上で説明した、標準的な2ボタンのサンプルをお使いになってどのような感想をお持ちになったでしょうか。ゲームとして考えると構成とルールがやや複雑で、操作自体も理解しにくいところがあるように思います。もちろんこのままで取り組みができるひとも多いですが、なかにはうまくいかないひともいるかもしれません。
手順にもあるように、バナナをどこに動かしたらいいか考えるところがこのゲームの最初のポイントなのですが、ここがうまくわからなかったり、どうしたらバナナと声がでるのかがわからないと誰かに言われたままにやってできるだけになってしまいます。
そこで後半はもっとシンプルで、わかりやすい方法について考えてみましょう。
バナナをうごかすサンプルその3 上下矢印ボタンと黒丸停止ボタンでバナナがうごきます。ボールが10秒間隔で落ちてきます。
使うのは2ボタン、ひとつは上下矢印ボタンでこれを押すと動きます。もう一つは黒丸ボタンでこれで停止します。操作ルールがかなりシンプルになりました。
手順はさらにシンプルです。まず今の状態はいいなと思ったら、黒丸停止ボタンを押し止めます。これではいけないなと思ったら上下矢印ボタンを押しうごかします。これだけです。
声の違いに気がつきやすいひとの場合はまず声に注目して、バナとバナナの違いを聞き分けるゲームにルールに変更します。はじめはバナと言っていた声が途中でバナナに変わります。バナナときこえたら黒丸の停止ボタンを押すとずっとバナナと言い続けます。
赤いボールの動きに気がつきやすいひとの場合は左右どちらに飛んでいったかに注目するといいかもしれません。バナナが上下するにつれて起きる変化を楽しんでみるのもいいかもしれません。
必要に応じて、画面を隠して音に集中したり、音を消してボールの動きに注目したりといった工夫も良いかもしれません。みなさんの創意工夫も大事です。
二番目のサンプルはスイッチのルールを一部変更して、一番目のサンプルにスロープと手すりを追加したようなものにしてみました。動作も思考も判断もゆるやかになっています。
前回の3ボタンに続いて今回は2ボタンを2種類試してみました。いかがだったでしょう。ご覧頂いたように操作スイッチとアプリケーションの間には、「スイッチのルール」が存在します。一般の人への影響はそれほど大きくないようですが、これが不自由のある方の使いやすさに影響することがあります。これらをうまく活かしてそのひとの不自由と調和させると、いくつかの不便が軽減され問題の解決につながるかもしれません。
しかしどのようなルールにどのような特徴があるのか、どのような不自由にどの特徴がどう影響(効果か弊害か)を示すのかはまだ十分明らかではありません。この場では特に言及しませんでしたが、表示の大きさや形状や色使い、移動物の大きさや速度、アニメーションの速さも同じように不自由な人の使いやすさに影響すると考えられます。
一般を対象とした市販のアプリやスイッチは商品性を追求しますのでこのような配慮に関して多くを期待できません。しかし使いにくいひとや使えないひとのためのこれらの試みは、高齢者に使いやすい商品作りや疲労時も操作ミスを起こしにくい商品作りにつながるものと思います。
次回はさらに身体の条件が厳しい人で同じことをする方法とその特徴や条件について考えていきます。
2018/11/02 公開
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