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不自由をもつ人がパソコンを使うための方法と手順

その2

ジョイスティックでパソコン操作

電動車いすを動かせるならパソコンもできるかな?
ジョイスティックの右はらくらくマウス

0 はじめに

前回のその1では、ある難病の方がパソコンを再び使用できるようになった話をご紹介しました。今回はもう少し古い時代、パソコン登場時代の取り組みから話を始めたいと思います。

1980年代にワープロ専用機やパソコンが登場するまで、文字の手書きは社会復帰に関連した目標のひとつで、利き手に麻痺のある方の多くが書字に取り組んでいました。欧米ではすでにタイプライタがこの目的に使用されてました。しかし日本では和文タイプこそありましたがこれは活字を見つけ出して一文字ずつ印字する道具で一般にはあまり使われていませんでした。このため日本語特有の多種類の文字を使いこなすことができる日本語ワープロ専用機やパソコン用日本語ワープロの登場までずっと手書きは今以上に意味ある取り組みでした。

1980年代はじめに日本でも一般向けのワープロ専用機それに続いてパソコンが登場しました。これをきっかけにワープロ利用が広がり、手書き文書と並んで仕上がりがきれいなワープロ文書が社会的に受け入れられるようになり一種のワープロブームになりました。これと前後してパソコンに馴染んだ若手技術者と比較的年齢が若い脊髄損傷の人たちが手書きに代わってパソコンを利用する取り組みを始めました。このように当時は「パソコンは若くなければちょっと無理」などと言われた時代でした。

1 キーボードを操作する

麻痺のある人がキーボードを操作するためには、キーを押す指を一本突出した形にして、横30センチ縦15センチほどの範囲を自由に移動しキーを押す動作が必要です。手の形がうまくできない場合はペンホルダー(手指でペンを保持するための装具 「ペンホルダー 装具 脊髄損傷」 などで検索してください)に消しゴムつき鉛筆を逆さまに装着してこれでキーを押す方法もあります。これで必要な範囲をカバーできると通常のキーボードが使用できる事になります。このほか使う人に合わせた自助具をキーボード入力に利用する例がたくさんあります。参考URL一番を参照ください。

MS-DOSの時代はキーボードが大きすぎて全面のカバーが難しい場合は、より小型のキーボードに変更するなど市販パーツの組み合わせで対応するほか、いくらかの電気電子工作や改造でユーザに合わせた道具作りが行われました。また不自由をもつ人が苦手な、同時押下(shiftと文字キーを同時に押す動作)を順次押下(shiftを押したあと文字キーを押す動作)で代替するソフトが開発され関係者の間でやりとりされ支援者間の連携も現れ始めました。今ではこれらの機能は、Windowsの簡単操作やmacOSのアクセシビリティに備えられ誰でもすぐに使える様になっています。

2 マウスを操作する

通常のマウスは指一本では操作しにくいです。この場合もWindowsの簡単操作やmacOSのアクセシビリティに備わった機能を使えばキーボードのテンキーでもマウスを操作できます。そのほかトラックボールを使えば微妙な操作が限られた動作で可能になり、置き場所も比較的自由になります。そのほかの様々な特徴をもった代替マウスが現在入手できます。お使いになる方事情に合わせて選ぶことが大切です。

3 パソコンを操作するときの作業環境

移乗や座位に困難がなければ、通常のいすにすわり通常のデスクに向かい通常の(共用の)パソコンに自分用の道具をいくつか付けてパソコン操作ができるかもしれません。ここまでできると就業や復学などの準備をする際にもかなり具体的な話ができることでしょう。

もし手動車いすを使用しているなら通路の確保や階段や段差の配慮、そしてデスクと車いすの干渉を避けるための工夫が必要になるかもしれません。さらに軽量の電動車いすを使用してる場合でもこれらの配慮や工夫をいくらか追加することで解決できることでしょう。

次に大型のリクライニング付き電動車いすを使っている場合について考えてみます。まず小回り性能を考慮して出入りの通路を広めに確保する必要があります。それに加えてリクライニングのためのスペースも必要です。またデスクは通常より15センチ程度高くする必要があります。このほか手の届く範囲に必要なものを配置する工夫も必要です。こう考えると色々盛りだくさんです。他の人と共用というよりもその人専用の作業スペースとなるかもしれません。

さらにチンコンロトール電動車いすリクライニング付きではどうでしょう。この車いすを使用している人は上肢での動作がうまくいきません。このように上肢の麻痺が強くキーボード操作には動きが足りない場合、口にくわえた棒でキーボードを操作する方法があります。使用する棒はマウススティックと呼ばれ形状も大きさも工夫されています。マウススティックを使うためには、保持のための口周囲やキーボード操作のための首周囲の動きが必要ですがこれらは残存しやすい運動と言われています。マウススティックはパソコン操作の他、本のページめくりなどの用途にも使用できますが、長期間使用すると歯や顎に負担がかかります。また落とした場合に自分で復旧しにくいなど注意や工夫が必要です。「パソコン マウススティック 自助具」で検索すると多くの事例が見つかるでしょう。

このように作業環境でまとめてみると、リクライニング機能が必要な場合はその人専用のパソコン操作環境が必要になることがわかります。またパソコン以外の日常生活のサポートも必要になります。これらの条件を総合して満足できるパソコン環境と生活環境作りが必要になるでしょう。

以上がパソコンを使うための基本的な手順です。しかし今ではもっと手軽で有用なツールが主役になりつつあります。

4 携帯 スマホ タブレット

携帯電話はじめスマホやタブレット端末が登場して、脊髄損傷など麻痺のある人の生活に大きな変化が起きました。まず困ったことが起きたときの遠方への連絡が携帯電話で可能になりました。そして届いた電話に自分で応答できるようになりました。

携帯電話の十数個のボタンの操作には、麻痺の程度に合わせて制作した各種の自助具を使用する例があります。「スマホ 自助具」で検索してみてください。このほかマウススティックを利用する場合もあります。この場合パソコンの場合よりも短いスティックが好まれるようです。

このほかスマホやタブレットでは、マウスやキーボードでも操作できます。(Androidはかなり古くから、USBやbluetooth接続で使用できます。iphoneやiPad は、iOS13・iPadOS13 からマウスを接続して使えるそうです。参考URLを参照してください)

前回紹介した代替マウスを利用してスマホやタブレットを使用できるとなら、ますますベッドでの使いやすくなると考えられます。

音声認識を利用した操作の開発が進められていますが日本語対応にはまだ時間がかかるようです。まだしばらく完成を待つ必要があります。

これらの新しいデバイスの特徴をまとめると以下のように

  1. 大きな動きが苦手な人にも使いやすいコンパクトさ
  2. 軽量コンパクトなので様々な肢位で使いやすい位置に配置しやすい
  3. パソコンでやっていることの多くができる
  4. デバイスが多種流通していて自分に合わせて選択できる
  5. 保持具など多様な付属品が流通していて福祉機器相場よりも安価
  6. いくつかの方法で操作できる

5 まとめ

今回はパソコン操作のごく初期から最近の話までしました。ながくおつきあいした患者さんも私たちもみんなともに年齢を重ねました。そして若い頃できたことが今ではちょっと難しい。無理のきかない無理ができないようになってきました。それまでできたことがだんだんできなくなるのは、進行性の病気の人ばかりではありません。脊髄損傷の方も脳性麻痺の方も自分は健康だと思っている方もみんなそうなります。

それまでのやり方でできなくなった時は、「手を変え品を変え」色々工夫できる事の大切さを学んだのはパソコンでした。また同じ機械であれもこれもいろいろできることの重要さもパソコンから学びました。

言い換えると手段の多様性と目的の多様性を維持し作り出すことが重要なポイントになると思います。マウスカーソルを動かすための道具(代替マウス)がたくさんあるからそれぞれ異なる不自由をもつ人がみんなそれぞれの道具でマウスカーソルを動かすことができるのです。また多くの種類のソフトウエアがあるからそれぞれの人がそれぞれの目的にあわせた活動ができるのです。

ですから代替マウスの種類がますます増えていくことと、様々なソフトウエアをマウスでも操作できるように作られて行くことが、より多くの人々がより多くの目的に向かって活動していけるようになる、そしてより多くの選択肢をもつことができる条件だと考えています。キーワードはマウスとソフトです。

現在元気にやっている若いみなさんも、何年かさきのこと、体調の悪いときのこと、疲れて力が出なくてうまくいかないときのことを考えて、そのために今とはちょっと違った別のやり方を準備しておくことをお勧めしたいと思います。ちょうど上のまとめ6番目にもありますように今時のデバイスには何種類かの操作方法が用意されています。これがうまくできると今やっていることを末永く続けていけるのではないかと思っています。

参考URL


2019/10/18 公開

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