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斜めうすの修理

カワムラサイクルフットサポート斜めうす

赤矢印 ナナメウスとはこの部品です

0 はじめに

斜めうすは、二重の管の相対的角度と位置を調整、固定する仕組みです。多くの場合外からは見えません。

身近な例では、自転車のハンドルを中央で支える支柱の中に使われています。支柱の上ネジを緩めると、ハンドルと支柱の固定が解除され、ハンドルの高さや角度を調整でき、ネジを締めると固定されます。 自転車を趣味にしている人はすでによくご存知と思います。

車いすには自転車に関係する技術や部品が使われています。例えば、上の写真のようにフットサポートには多くの場合、斜めうすが使われていて、高さや角度の調整ができます。ただ固定のネジが下向きについているので、ますます普通の人の目にはつきません。

今回はこんな目につかないところで働いている部品の話です。

1 斜めうすの故障 破損

さて当院は主力車いすとしてカワムラサイクルのKA800型を多数使用しています。この機種は多くの長所があるのですが、いくつかの問題点もあります。斜めうすの問題もその一つです。

破損事例

当院では車いすをお使いになる患者さんの体格や身体の事情に合わせて、フットサポートの高さをよく調整します。調整ネジを緩めて調整してからまたネジを締めます。これを何度も何度も繰り返していると、斜めうすのネジ山が徐々に摩耗し、あるとき力を入れてネジを締めたとたんネジ山がごっそり取れ、もはやメネジではなくただの穴になります。上の写真が破損例です。穴の中のメネジがなくなっています。これではもう固定も調整もできなくなります。

調整の頻度が少なければこのような破損は非常にまれです。また作業者が経験豊かなら手応えと過去の苦い経験で破損を防止できます。しかし知力よりも腕力で課題を解決しようとする人が力任せに作業するとこれはよく壊れます。通常修理は不可能です。

2 初期の対応

25年前のKA800の導入の当初はまず少ない台数を購入し現場で使用してトラブル調査をしました。その初期からこの斜めうすの問題はありました。

その当時主力だった日進の車いすではこのような故障はありませんでしたので斜めうすを比較してみました。すると、形状はほとんど同じ、互換性さえありました。しかし材質は、日進が鉄系金属、カワムラはアルミでした。どうも原因はカワムラサイクルの斜めうすの材質からくる強度不足のようです。どうしてこんな設計をすることになったのでしょう。謎です。

ここでメーカーのカワムラサイクルへの改善の依頼を考える人がいるかもしれません。しかしうまくいくあてのない話にのって時間を無駄にするのはよくある失敗のパターンです。また日常業務を回すためにはもっと実効性のある方法、つまりこうすればきっとうまくいく方法を見つけて実行することが大切です。

そこで廃棄する車いすから鉄製の斜めうすを回収し、互換性のある部品を破損したカワムラサイクルKA800の修理に使用することにしました。 これなら予算をとる必要ありませんし、即修理を実行でき確実に成果もでます。

3 今回の対応

こんなやり方で20年以上故障を乗り切って来ました。 しかし、この間にKA800の台数も増え、力任せの職員が増えたせいか、最近では鉄製斜めうすの手持ちが少なくなり、反対にアルミ製斜めうすの残骸が増えてきました。そこで捨てずに集めておいたこの残骸を復活させ再利用していますのでこれについて説明します。

カワムラサイクルは、このアルミの斜めくらをその後も作り続けて、かなりたくさん出回っています。もし同じ問題でお困りの方がおられましたらこの方法をお試しください。

修理後

上の写真の手前が破損したアルミの斜めうす、奥が修理した斜めうすです。まず中央の元M8ネジの部分に8キリを通して残りのネジ山を取り除きます。続いて上面の円形部分をヤスリで整え、表面を荒れさせます。同じくM8ナットの接合面も表面を荒らします。接着表面が滑らかなままでは接着強度が足りませんのでこのような工夫が必要です。これらを脱脂の上をエポキシ樹脂接着剤で接着します。この際、内部にM8ボルトを通して接着し、固化の途中でボルトを抜けば、中に接着剤がはみ出るのを防止できます。はみ出ると後が厄介です。下の写真は組み立てたところです。

修理後

4 おわりに

今回は破損した斜めうすの修理の方法を紹介しました。

この問題に対してはじめに既成品の販売を探したのですが、見つかりませんでした。考えてみれば斜めうすを探す人がそれほど多いとは思えません。それどころか斜めうすの名前を知っている人もそれほどいるとは思えません。これでは販売していないのも当然です。

幸い破損した斜めうすを廃棄せずに保存してあったので、いくらかの費用で修理できるようになりました。これで、120台以上あるKA800が故障するたびにこの修理を繰り返していけば、費用をあまりかけずに修理でき、車いすも持続的にながく利用できる目処がたちました。

さらに今回の修理ではメネジ部分が市販の六角ナットですので、強度が大幅に上がりました。もはや人間の腕力でどうこうなるレベルではありません。 これでもう安心と思っています。(しかし想像を超えることをするのもまた人間ではありますが。。)


2024/12/25 クリスマス 公開

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