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車いすメンテナンス 張り調整

車いすシート張り調整

1 はじめに

当院では、カワムラサイクルのKA800モデルを多数使っています。このモデルは簡易モジュール車いすとして企画/設計されいろいろな機能を備えています。

一般的にこのように同じモデルが多いとメンテナンスをはじめ各種のコストを低くおさえることができます。しかし通常は同じ車いすばかりでは使う人の多様なニーズに対応するのがむつかしくなります。しかし車いす自体がもつ多機能を現場で適切に活用、発揮できるとこのジレンマから抜け出すことができます。

つまり訓練や看護の現場で車いすを使う人に合わせて車いすを調整できると、おひとりおひとりがよりパフォーマンスを発揮させやすくなります。しかも無駄なコストも減らすことができます。ズバリ、コストパフォーマンスがよくなります。

今回はKA800に機能のひとつ、張り調整に関する当院の事例について簡単に説明します。

2 張り調整機能とは

KA800のクッションや背面シートを外すと上の写真のように座面と背面のシート地があらわれ、まるでスケルトン(がいこつ)のように見えます。

一般の張り調整シートは座面と背面の全体にベルト状の張り調整機構がついていますが、KA800ではシートの前半分は一体のシートで、後半分は三本のベルクロ付きベルトでできています。このあたりが『簡易』モジュールの理由でしょうか。それでもこれらのベルトの長さをそれぞれ調整すると座面後半の形状をいくらか変更することができます。

張り調整事例ベルトの様子
張り調整事例クッションを乗せた座面形状

上の例では、ベルトが三本ともゆるめられて殿部がやや低くなっているのがわかります。これによって、座の奥まで深く座りやすくなりまた前すべりが少なくなる特徴を作れます。また同時に移乗しにくくなる傾向がでることもあります。お使いになる人の身体状況に合わせてほどよい形状に調整し、メリットが大きく、デメリットが少なくなる様にするのが大切です。アンカークッションを使っても同じことができますが、ベルトの張り調整方式では前部座面高が一定に保つことができるので足駆動などに影響しにくいことと、高さや形状の微調整ができるといった特徴があります。

前後方向の調整はおおよそこのようにベルトの張り調整で行いますが、左右方向に調整が必要な場合もあります。左右どちらかに倒れやすく、アームサポートに肘をついたり、手で握っていないと怖くてしかたないなどのお話をお聞きになることもあるでしょう。そのような場合は、新聞紙を何枚か折りたたんでパットを作りそれを座面シートとクッションの間にはさみ左右方向の形状を調整します。新聞紙の枚数を増減すると非常に微妙な調整もそして調整のやり直しも非常に安価にできます。またさらにバックサポートをゆるめて背面を包み込むようにするとさらに安定しますが窮屈にもなります。

3 おわりに

せっかく車いすに乗っても、しばらくすると『ベッドにもどりたい』とおっしゃることがあります。 このような場合には、ベッドが恋しいのか、車いすに何かいやなことがあるのかをよく考えて見る必要があります。倒れそうで怖い。おしりが痛い。疲れた。眠い。理由はいろいろあるのですが、なぜかみなさん『ベッドにもどりたい』とおっしゃいます。この場合は本当の意味(=ニーズ)を知ることが大切です。

上の写真は退院後点検にもどってきた車いすを撮影したものです。担当スタッフと患者さんがやりとりしながら作った形状のようです。試しに座ってみると、『ややホールド強め』で安定性と安全重視をねらった設定のようでした。最近は上手な設定が増えましたが以前は苦しいものもありました。

当院にKA800の一台目が来たのが18年前、二十数台になるのに5年、取り組みがはじまるのに10年、だんだん扱いが上手になってきて患者さんに合わせられるようになり、台数も百台を超えたのが二三年前です。使いこなせるようになる、活用できるようになるまで長い期間がかかりましたが、福祉機器の普及と定着とは改めてこのようなものではないかと思います。

この車いすは、写真の様な張り調整などすべての設定をリセットし整備点検をして次の患者さんに使ってもらうために現場に送り出しました。


2018/6/29 公開

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