ある日、患者さんと訓練士がそろってやって来ました。乗っている車いすは当院にもたくさんあるモジュール車いすのカワムラサイクルKA800で、レンタル業者から最近届いたということでした。問題は、この車いすのフットサポートが左右にぐらついて困る。院内の車いすはではこんなことないのにおかしいとのことでした。
早速その車いすを調べて見ると原因はすぐにわかりました。まず左のスイングアウト/インのロック金具の取り付けネジ(上の写真赤い矢印 撮影に使用したのは当院の車いすです)が緩んでいました。またロックピンを受ける穴が左右ともに広がりガタが出ていた。これらは通常の使用でも1年程度で普通に見られるようになる現象です。しかしこの業者はとくに注意していないようでした。
当院では、使用後の車いすを回収して試乗しこのような問題の有無を確認しそして問題がごく小さいうちに修理しています。早く見つければ軽い修理で直ることが多いですが、ガタやぐらつきが大きくなると修理も大がかりになり費用もかかるようになります。そしてある段階を超えると修理不能となります。今回は緩んだネジを増し締めし、広がった穴をハンマで修正して小さくしました。
ロック金具ピン受け穴 赤い矢印部分をたたいて穴の形を整える
たたきすぎるとピンが入らなくなるので注意
ピン保持金具 赤い矢印部分をたたいてピンのがたつきを少なくする
たたきすぎるとピンが動かなくなるので注意
頻回に点検してこまめに修理すると、優に20年以上の使用も可能になる車いすもノーメンテナンスでは3年くらいで使用できなくなることもあるらしいです。 特に機能付き車いすとも呼ばれる、モジュール車いすは部品の数もネジの数も多く、今回のようなねじの緩みもよく起きます。このためなおさらよく注意して緩みなどの不具合を見つけ締め付けるなど、日常的なメンテナンスが大切になります。
モジュール車いすが優れていると勧めるひともおおいのですが、このようなメンテナンスが必要だとか、メンテナンスしないと壊れやすいとかいう話は私もなかなか聞く機会がありません。とくに悪気はないのでしょうが、道具に関する知識や体験が少なくメンテナンスに対して意識が十分でないのでしょうか。
車いすにかぎらず、機能がいろいろ増えると高価で壊れやすくなり、維持管理に手間やコストがかかるようになるという話は、自転車やバイクを趣味にしているひとの間では普通に知られていることと思います。しかし最近このようなことをまるで知らない人がかなり多くなったように思います。
このような人々が、言われるままに手に余る車いすを導入し維持管理不足から故障や事故につながるようなことがないように十分気をつけてほしいと思います。
また今回紹介した方法も技能不足のひとがまねすると修理しているつもりが結局破壊することになるかもしれません。ご注意ください。
2018/8/9 公開
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