もし近くに車いすユーザがいて、 その人の助けになりたい、力になりたいとおもったとき、 あなたは何をしたらいいのだろうか?
院内で発生したインシデントアクシデントの報告書が定期的に回覧されてくる。 転倒転落のインシデントアクシデントレポートを読んでいると、 現場には車いすがよく登場する。
今回は、安全をキーワードに車いすについて考えてみる。
車いすが関係する転倒の代表的事例とは次のようなものだ。
車いすからベッドやトイレに乗り移ろうとしたとき、ブレーキがかかっていなかったので 移乗の途中で車いすが不意に動いてしまい、そこであわてて転倒してしまった。 かかっていると思ったブレーキと動かないと思った車いす。 そこに予想外のことが発生してあわててころんでしまうという事例だ。
ブレーキをかけ忘れて車いすが動いてしまうことが多いが、なかには ブレーキをかけていたのに車いすが動いてしまうこともある。
ここで車いすのブレーキについて考えてみたい。
上の写真の様に、車いすのブレーキは自転車と異なりタイヤ表面を押さえつけてタイヤの動きを止める仕組みのものが現在でも主流になっている。 このタイプは、タイヤの空気が少ない場合にブレーキの利きが弱くなることがある。 タイヤの空気を長いあいだ入れていないと、以前はきいたブレーキが今日はきかないということが起きることがある。 長い期間、なにもせずただそっとしておいただけなのにブレーキがかからなくなるのだ。 果たしてこれを『故障』と呼べるかわからないが、 このように日常のメンテナンス(手入れともいう)が足りないと故障と同等の危ないことも起こりうる。
例えば、『私は何も悪いことしていません。』と言っても、車いすは『何もしないことそのものが良くない』という道具なのだ。 このようにいつもよい状態に保つことが車いすを安全に使う上で必要だ。
また、 ブレーキの調子が悪い場合まずブレーキの調整作業を始めたくなるが、上の話のように実はその前にタイヤに十分空気を入れ十分に固くなったタイヤの合わせてブレーキ調整すると良い。そうしないとタイヤの空気が減ったり入れたりするたびに ブレーキレバーが重くて動かせないとかブレーキが効かないなどの、問題が起き、ブレーキ調整をやり直すことになる。
また反対にブレーキの調子がおかしい、調整したいと思ったら、まず空気を入れてからブレーキを確認し、それでも不十分なら調整作業を始めるべきだろう。 そしてそれ以降は、タイヤに空気が十分入っている状態を保つことを心がけよう。
タイヤに空気がいっぱいで、ブレーキも十分にかかるように調整すると、ブレーキ操作に力が足りなくなることもある。とくにご高齢の方ではよくあるようだ。 そのような場合は、ブレーキレバーを長くすると操作が軽くなり、ブレーキの利きも保たれる。空気を抜いたり、ブレーキを弱めに調整してはいけない。
当院では、毎月、患者さんが使用中のすべての車いすを点検する。 点検といっても空気が十分はいっているかとブレーキがきちんと利いているか、そしてその他だ。 実際の安全点検作業の95%以上がタイヤの空気入れである。時々ブレーキの調整や、緩んだネジを見つけてしめ直すこともある。車いすの安全には空気入れに始まり空気入れに終わると言ってもいい。
患者さんにはおおむね好評だ。前に話したように空気がたくさん入っていると車いす駆動が楽になり喜んでもらっているしかし、こちらはさらに安全と事故防止も重要な目的なのだ。
多くの車いすを利用している場合はとくに点検を定期的に行ったほうが作業も効率的で安全も高まるだろう。
空気を入れの必要がないタイヤもある。 ノーパンクタイヤと呼ばれる固いスポンジ状の素材でできたタイヤだ。空気が入っていないのでパンクの心配がない。 公的施設の入り口に配置されている車いすにはノーパンクタイヤが多い。 誰かが使おうとしたときに空気が足りなくて使えないなどということがない。 しかし、短時間ならそれほどでもないが、実は長い時間動き回るとお尻が痛くなる。 路面のショックを吸収する力は、やはり空気入りタイヤの方が優れているようだ。 このような理由で、当院ではノーパンクタイヤの車いすはほとんどない。
『私はこれまで自転車の空気入れもしたことがない』 そんな職員が最近現れた。どんな自転車なのかと尋ねたら、自転車の空気は家族が入れてくれたそうだ。
21世紀は昔思っていた以上に未来的だ。
2017/10/27 公開
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