もし近くに車いすユーザがいて、 その人の助けになりたい、力になりたいとおもったとき、 あなたは何をしたらいいのだろうか?
使う人に合った福祉機器選びが大切だとはよく言われる。この例を当院の車いすの例で紹介する。
車いすと使う人の適合(合っているかどうか)を考える場合には尺度はいくつかある。デザインも車重も座面横幅もこれに含まれるが最も基本となるのは寸法、とくに座面高さが一番の基本となる。
簡単に言えば、小さな人には低い車いす大きな人には高い車いす。使う人の寸法と車いすの寸法が合っていることが大切だ。ここでは車いすの座面高と使う人の下腿長の関係がポイントになる。
このほか、移乗を容易にするため高めの車いす、足駆動を容易にするため低めの車いすを選ぶこともある。両方容易にしたい場合は移乗を優先することが多い。このように寸法のほか使う人の状態や能力も考慮して車いすを決めていく。
日々の入院患者さんに次々に提供するため、上の写真のような4種類の座面高さの車いすを予め用意している。 左から順に超低床、低床、中床そして高床でそれぞれの座面高は記したとおりだ。 写真は当院で100台以上使用しているカワムラサイクルのKA800モデルでアームサポートのはね上げやフットサポートのスイングアウトや取り外しもできる。また車輪などの部品を組み変えると高さの変更ができる。
メーカの立場から言うならば、少品種の部品を大量生産し、それらの組み合わせや組み立て方法の工夫で多品種の商品を作り出しているというのが実際には近い。 この特徴を利用して需要に在庫を合わせることができる。つまり余っているサイズを分解し、不足しているサイズを組み立てることで需要の変動に対応している。このための車輪やキャスタなど余剰部品もいくらか用意している。 このような作業は必ずしもメーカ推奨とは言えない。実施にあたり各自の能力と責任が問われることは言うまでもない。
カワムラサイクルKA800は基本的にどのサイズもフレームは共通である。
後輪は22インチと20インチと16インチの3種類あるが当院では16インチはない。写真は左が22インチ右が20インチで比較すると大きさの違いがわかる。
車輪取り付け部には取り付け穴が5箇所ある。 どの大きさの車輪をどの穴に取り付けるかで座面の高さが決まる。
前輪キャスターは7インチと6インチの2種類あり複数の車輪取り付け穴を持つフォークの大きさも異なる。どちらのキャスタを使うかとどの穴に車輪を取り付けるかで高さが変更できる。
どの大きさの車輪をどこに取り付ければその座面高さになるかの一覧表を示す。(カワムラサイクル、総合カタログより)
このような組み立て方をすると目標の座面高さになる。 さらにブレーキの調整とフットサポートの高さ調整をすると一応完成となる。
作業に習熟するためいくらか練習が必要だろう。訓練を重ねれば短い時間で確実な作業ができるようになるだろう。
道具を大事にすることで患者さんは自分が大事にされていると思われるようだ。
上のキャスタの写真参照、左の7インチキャスタのフォークに市販ではない三番目の穴を開けた。この穴に7インチの車輪をつけると底床になる。このカイゼンにより中床と底床の変更作業時間が短縮され、部品在庫が減少し、車いすのやりくりが楽になった。 (腕に自信のある人だけ自己責任でやってください)
車いすと杖歩行を併用している場合、車いす利用時のつえの置き場所に困る。そこで片手で出し入れができる杖ホルダを押手ハンドル部(上写真)とキッキングバー部(上から三番目の写真)につけた。素材は短下肢装具の材料の切れ端や薬剤空き容器でこれらは高品質だがすでに廃棄物でしかない。この杖ホルダは低コストの割に好評で、やや柔らかく破損しやすいがそれだけ怪我とは無縁で、作りなおしも取替えも簡単だ。
2000年の春、あるご高齢のちいさなご婦人が当院に一台の車いすを寄付してくださった。当時出たばかりのKA800だった。
院長室でその方にお礼申し上げ持ち帰り早速分解した。その結果、見た目と裏腹に構造は質実剛健で頑丈に設計されていることやアイデアがたくさん盛り込まれていること、そして数台程度ならたいしたことはないが、この車いすが何十台もあればかなりの経費削減と従来にない運用と患者サービスが期待できるとわかった。
それから18年経ち、今では当院で100台以上のKA800が使われている。この間フレームのクラックで一台廃棄したが、一号機を含むそのほかはまだ現役で患者さんの役に立っている。 つきあいが長いと弱点も欠点もいくつもわかってくるがその手当の方法もわかってくる。カイゼンもいくつか行った。KA800もこの間何回かモデルチェンジしているが基本的な部分は大きく変わっていない。新しいモデルの部品が古いモデルにも使えることが多い。 これもKA800の特徴である。
「この患者さんにはどの車いすがいいのだろうか?」
スタッフも考えるし、患者さんも考える。ご家族も考える。
「どっちがいいか乗ってみましょう」
「こっちの方があっちよりもいいみたい」
試して、くらべて、考えて、決める。
選べる車いすの目的はこのようなところにある。
2018/4/20 公開
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