もし近くに車いすユーザがいて、 その人の助けになりたい、力になりたいとおもったとき、 あなたは何をしたらいいのだろうか?
足を骨折すると車いすに乗るときに膝を伸ばして足を高くすることがよくあります。当院ではこのような場合に、上の写真の様に車いすの通常のフットサポートをエレベーション機能付きのフットサポートに交換します。この写真は、ちょうど同じ日に手術を受けた患者さん用に二台の車いすを準備したときのものです。右の足を手術したかたには右足に、左の足を手術したかたには左足にエレベーション機能をつけています。ちなみに右の車いすは高床、左の車いすは中床です。
この文をお読みになったみなさんはもしかして、こんなことあたりまえでどこの病院でも普通にやっていると思われるかもしれません。この写真に写っている車いすは、カワムラサイクルのKA800モデルですが、写真の様に片方にエレベーション機能をつけている車いすはカワムラサイクルのカタログには載っていません。ですので普通は、下の写真の様に左右両方にエレベーション機能がついているモデルを患者さんに使ってもらうことになります。
しかしこのように両方のエレベーション機能が必要なのは、たまたま運良く(ご本人的には運悪く)両足をケガした患者さんだけで、これはかなりまれなことです。多くの人にとって右か左の片方あれば十分なのです。短期間だからエレベーション機能が両方についている車いすを使えばいいじゃないかとお考えかもしれませんが、片足にギプスをつけて車いすからベッドに乗り移る場面を想像してください。痛む足をかかえている時には、健康な方の足元はできるだけすっきりとして何もない方が移乗しやすく、転倒のリスクも恐怖感も少なくなります。
こんなことはメーカも十分わかっていて、作ろうと思えば作れたはずです。しかしカタログに載せて商品のひとつとして扱うほどに市場にアピールしないと判断したのだと想像しています。
カワムラサイクルのKA800は基本となる本体フレームに何種類かの部品を組合わせることでモデルのバリエーションをつくっています。ですから部品さえ手に入れば、通常型の車いすを両足エレベーション機能付き車いすに変更することもできますし、ここで紹介したように左右どちらかのみエレベーション機能付きにすることもできます。そこでメーカに問い合わせてみたところ修理部品として出してくれることになり、左右3セットのエレベーション機能付きフットサポート部品を購入しました。
当院では、通常2,3人(冬季はもうすこし増えます)の患者さんがこのようなエレベーション機能付きの車いすを利用しています。まず入院時には通常の車いすを利用します。手術のあとエレベーションが必要となると、その車いすのフットレストを付け替えます。もし高齢などで脚力が足りないとか、体重がおもい場合はこの際に座面をやや高くして移乗しやすくすることもあります。何日かしてまたエレベーションが不要になると元の部品に付け替えます。フットサポート以外は同じ車いすを使っていただきます。
稀な例ですが、何日かの間隔をおいて左右の足を順次手術する場合には、左右のフットサポートを次々と交換することもあります。
このようにいくらか手間をかけることで、小さなコストできめ細かい患者サービスと安全対策が可能になります。同じことを市販の両足エレベーション車いすでやるには、需要が少なく稼働率がひくく資本の無駄がでやすくなります。また安全対策にも問題があります。
近年はエレベーション機能とスイングアウト機能がついたモデルがでています。またこの部品はカタログにも掲載され単品販売もしています。これらを利用すると、ここで紹介した、左右どちらか片方だけエレベーション機能をつけることが手軽にできるようになります。
早速この部品を購入してみました。ところがエレベーションのレバーやスイングアウトのノブ、アームサポートロックレバー、そして車いすのブレーキのレバーが近接しているため、誤操作のリスクが予想されます。(下写真参照)このような理由で混みいったことが得意でない方にはあまりお勧めできないと考えています。
バイクで骨折するような若い人はこの部品でも問題なく操作できるので(ミスしたからケガをしたとの意見はひとまずおいて)心配ありませんが、つまづいて転んで骨が折れてしまったご高齢の方には従来のシンプルな部品を使ってもらのがいいと思います。
当院では100台以上のカワムラサイクルKA800モデルを準備し入院患者さんに提供しています。この結果、使う人の体格に合った座面高さの車いすや今回ご紹介したようなエレベーション機能を追加などのオプションも提供できるようになりました。またオプションの種類も徐々に増えて、提供できるサービスも改善されています。
従来、KA800などモジュール型車いす(機能付き車いすとも呼ばれています)は管理に手間がかかりコストも高いと考えられてきました。しかし技能とコストを投入し管理とメンテナンスを行いさらにアイデアを盛り込めば、新しいサービスと高い安全性を実現させるとともに、20年以上の長期間にわたる車いす使用が可能になりつつあります。
さらに道具としての車いすに安全や安心を加えて患者さんに提供する、よりよいサービスの実現改善をめざしてこれからも創意工夫を重ねて行きたいと考えています。
2018/10/12 公開
研究企画課リハ工学科にもどる
←もくじはこちらです