かならずお読みください注意事項

車いすを寄付していただき

ありがとうございます

こんな具合に活用しています

寄付していただいた介護用車いす

1 はじめに

家族が使っていた車いすがあるのだが、もしよかったら使ってもらえないだろうか。

このようなお話は年に2,3件あります。以前当院を利用された方や、病院の近くにお住まいの方や、このほか病院職員からも相談があります。

当科ではこのようなお話は基本的にお引き受けすることしています。家族が使っていた車いすをいつまでも家に置いておけないがかといってゴミとして処分するのはちょっとどうも。そんなお気持ちにできるだけ応えるようにしています。ただ当方までの運搬はお願いしています。

時にはブレーキ、ハンドル、キャスタ、ネジなどに分解し交換部品として使用したり、時には車いすとして現場で使用させていただくこともあり大変感謝しています。

2 車いすをいただいた

今回お話しするのは最近いただいた上の写真の車いすについてです。その方のご家族がお使いになっていた小さな車輪がついた介助用車いすで4年間お使いになったそうです。しかし当院では大きな車輪の自走式と介助用のチルトリクライニングがメインでこのタイプの車いすはほとんど使っていませんでした。

さてどうしようとかと思いよく見ると、カワムラサイクルの製品です。カタログでしらべると型番はKA816-42B-LOで、当院でよく使っているKA800シリーズの製品であることがわかりました。こうなると話は変わって来ます。KA800シリーズは外見や用途の異なる何種類かの車いすのシリーズですが、基本部品の多くが共通化されている特徴があります。またもう20年近く大きなモデルチェンジもなく基本設計が変更されていません。

ちょうど約二年前にフレームにクラック(割れたヒビ)が入り現場に出せなくなった車いすが当方にありました。そこでこの車いすの修理にいただいた車いすを使うことにしました。

クラックの写真

クラックの写真 どうしたらこんなことになるのだろうか

3 まず分解と掃除と洗濯

はじめにしばらく物置にしまわれていたこの車いすを掃除しながら観察しました。

背面クッションはビニルレザーの表面がひび割れていました。右に傾いた姿勢ですわり長い時間を過ごしたのかもしれません。座面は目立った傷はありません。しかしビニルレザーは掃除が楽な反面すべりのため座位姿勢が安定しない欠点があります。また座クッション下の座シートはずいぶんのびて中央が凹になっています。これもこのモデルの欠点のひとつです。何とかしなくてはなりません。

ブレーキはなかから黒い粉が出ていました。分解すると軸が錆びています。この部分は錆びやすくブレーキを使用するたびに磨耗が進みます。これを防ぐためには購入時に分解してあらかじめ摺動部分にオイルをさしておくと10年くらいもちます。この車いすはメンテナンスなしで4年ほど経ったようですがもうすこし使えそうなのでこの機会にオイルをさしておきました。

この段階で、座シートと背シートを外して洗濯機で洗濯しました。これまでの汚れや食べこぼしなどがたくさんありました。多分初めての洗濯だったようです。

タイヤやキャスターには目立った痛みはありませんでした。どうやら移動はかなり少なかったようです。肝心のフレームにもほとんど痛みは見られず、折りたたみも少なかったようです。

今回、四年間(多分)ノーメンテナンスで使い続けるとどうなるかを観察することができました。座クッションと背クッションは基本的に消耗品ですがこの車いすではずいぶん痛みが進んでいました。もしかして座っている時間がとても長かったのでしょうか。座シートの伸びもこのモデルの弱点ですがこの車いすでもそれが観察できました。ただブレーキの傷みが早いのには驚きました。摺動部分への注油を怠るとてきめんに寿命を縮めることがわかります。このまま使い続けていたらじきに故障していたと思います。ちなみに当院の車いすは平均寿命が20年を超えます。この違いはメンテナンスの違いによるものと思います。

4 組み立て作業

さて洗濯物が乾燥したところで組み立て作業にかかります。

まず座シートの伸びは、すでに 『車いすメンテナンス カイゼン3 座面のカイゼン』 で説明した方法で修理しました。座クッションと背クッションは元のこわれた車いすのものを使うことにしました。またキャスタは7インチ、タイヤは22インチをつけて高床にしました。余った6インチキャスタと16インチタイヤはチルトアンドリクライニング車いすの予備パーツになりました。このほかの部品も他の車いすのための予備パーツになりました。

いただいた車いすのフレームを故障した車いすに取り付けるというよりも、故障した車いすからフレーム以外の必要な部品をいただいた車いすのフレームに引っ越しするような作業を約一時間。そのあと新品のタイヤを取り付けて完成です。プラモデルを作るよりも簡単な作業でした。

完成の写真

この写真は作業終了時のものです。しかし特に外見上特徴のない意味不明の写真になってしましました。実際はフレームの幅が20mm広いのですが多分誰も気がつかないでしょう。

5 おわりに

フレームを購入して修理しようか、それとも部品とりにしようか迷っていた車いすでしたが、今回めでたく『職場復帰』できることになりました。本体は2010年製、フレームは2014年製でしたが問題なく組み立てできました。

さて今回の取り組みの背景にはいくつかの条件があったと思います。

  1. まず当院の車いすとして共通部品が多く大きなモデルチェンジが少ないモデルを採用し数多くの台数を導入し、交換部品もそろえ、メンテナンスの合理化を既に進めていた。
  2. さらにそのモデルが売れ筋商品で市中にも多く出回っていたため、今回のように寄付された車いすが当院と同じシリーズのモデルだった。
  3. 2台のそれぞれ問題のある車いすから1台の使える車いすを作る取り組みが、日常業務で十分やり慣れたメンテナンス作業の応用でできた。

これらにより、取り組みの経過と結果をこのページにまとめて公表することになりましたがいかがだったでしょうか。

聞くところによると使用する車いすの機種選定を業者任せにしたり、『公正な取引』のため各社各モデルをいろいろそろえたりする例もある様です。

そんなことではメンテナンスの苦労と財政の苦労は少なくなることはありません。この記事が同じような課題に取り組んでいるみなさんの参考になれば幸いです。


2018/10/22 公開

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