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Web 文字盤 モニター調査

第1回 準備

文字盤4

『文字盤4』は、ひらがな、カタカナ、あいさつ(上図)
からだの4種類の文字盤を切り替えて使えます

0 はじめに

Web文字盤の開発が徐々に進みそろそろ誰かに使ってもらって意見を聞いてみようと考えたのが昨年の年末でした。そこからWeb文字盤のモニター調査の準備を開始しました。はじめのころは試作品を使ってもらい意見を聞けばそれでいいのかと思いました。しかし少し考えてみると、それだけでは大したものは得られないのではないか、どうせやるなら作り手として求めるものは何かを考えてしっかり準備してからやるべきではないかと考えが変わりました。

今回から何回かにわけて、Web文字盤のモニター調査の取り組みについて紹介していきたいと思います。

1 モニター調査の目的

まずモニター調査とは何のためにやるのかを考えてみました。モニター調査とはプロダクツ(製作したモノ)を媒介(=話のネタ)として使う人と作る人とで意見の交換を行い、互いの価値観のすりあわせを行いそれをプロダクツに盛り込むことと思います。作る人の意気込みが強いばかりでも、使う人の要望ばかりでもよいプロダクツにはつながりません。両者がお互いの意見や価値観を理解し、歩み寄り、節度ある妥協点を手探りする取り組みと考えています。

作る側にも使う側にもそれぞれ事情も都合もありますから、単にアンケートして『よい、ふつう、悪い』を聞いて、『よい』をたくさんにするだけでは話は済みません。

ある事柄を変更すべきかそのままにするのか。変更するとしたら何をどう変更するのか。その変更でどの程度の改善になるのか。その変更で別の何か悪いことが発生しないのか。このような意見交換と確認を行うなかで互いの価値観を理解しバランスさせていく作業が求められるところだと思います。

私がここでイメージしたのは、お客とテイラーの仮あわせ作業です。
「お客さん。ここはこの程度にしておくのが無難ですよ。」
「そうですか。それではそのくらいにしてください。」

職人さんはお客の言うとおりに仕事をしているだけではありません。大工さん、建具屋さん、餅屋さん、仕出し屋さんなど昔はみんなこれをやっていましたが今時はあまり見かけなくなりました。こんなモニター調査をしようとすると時間もかかりますし、事前の準備もいろいろ必要になります。

2 モニター調査の準備

まずどんな準備が必要でしょうか。

まず一番目に作り手の目的やねらいが正しく十分に使い手に対して製作物で表現できていることが大事です。つまり能書き通りにきちんと動いてそれを使って役に立つことが実感できないといけません。

続いて二番目に、当然作り手は十分使い慣れていますが、使い慣れていない人が使った際にも、都合の悪いこと、困ることが、トラブルや問題が起きないこと。また使用の際に余分な気遣いやストレスが少ないことまたはないことが必要になります。例えばこんな話をみなさんはお聞きになったことはありませんか。

なけなしの資金で試作品を一台作ったのでユーザの話を聞きたい。評判がいいようなら開発を続けたい。でも耐久性や強度など検討が不十分で故障するかもしれないので、気をつけてほしい。

福祉機器アイデアなんとか大会などという場面ではよく見かけます。しかしこれでは困ります。まず安心して使えないようではしっかりした評価や判断ができません。これでは集まった意見やまとめられた調査の結果にも疑問が残ります。

さらに三番目に、モニター調査で得られた意見は可能な限り検証作業を行うのがいいと思います。例えば『軽くなればいい』と意見があれば、軽くしたサンプルを作って試してもらいましょう。そして確かに軽くしたら改善されたことを確認したあとで、軽くするためにかかった費用の話をするのです。「その値段なら元の方がいい」となるか「その値段なら軽い方がいい」となるかはわかりません。しかしどちらにせよ出された意見の価値が見えてきます。またこのようなやりとりを繰り返すとだんだんいい意見が出るようになります。(いい意見を出せるいいモニターになるともいえます。)しかし最初は単なる思いつきだったのに本当の価値がでることもあるのでここも気が抜けません。

モニター調査は重要と誰もが思うのですが、実際にしっかりやるのはそれほど楽ではありません。

さて具体的には、モニター調査を始めるまえに何台かのタブレットを手に入れて、通常の使用で問題が起きないようにWeb文字盤の試運転を繰り返して完成度を上げる取り組みをしました。なかでも合成音声の文章を読み上げ機能とオフラインWebアプリ機能にはいろいろ失敗と苦労もありましたがなんとか目処がたちました。

また試用の結果のリクエストにこたえるため、各種の変更ができるようにプログラムの所々に工夫を加えて作るようにしました。またいろいろなリクエストに応えられるように勉強しました。

3 誰に頼んだらいいだろう?

さてモニター調査はどんな人にお願いしたらいいでしょう。

まず何と言っても声や言葉に不自由があってコミュニケーションで不便な思いをしているご本人にお願いしたいと思いました。

しかし言葉は不自由でも、意見や要望やどんなところにどんな具合に困っているかをきちんと伝えていただけることが大切です。ここが難しいところです。

またモニター調査のために日常生活の中でいろいろたくさん使っていただきたいので、活動的な生活をしている人がいいでしょう。ひとりで過ごすのがお好きな方ではちょっと困ります。またしばしばお会いしてお話を伺ったりメンテナンスもしたいので、お住いがあまり遠いと困ることがあるかもしれません。

このように考えていくとモニター役探しもかんたんではありません。でもあまりあれこれ考えてもまとまりませんので、気長に使って色々注文をつけてくれるひとはいませんかと各方面に相談しました。すると職場の先生がある人を紹介してくれました。

その人は、私の勤務先の富山県リハビリテーション病院こども支援センターと同じ敷地内のある施設に入所しておられる方です。この方は声が不自由で会話で不便をしておられます。そしてすでに携帯電話で文字入力し文を読み上げて日常生活に使用しておられました。

早速お会いして、初めて使うというタブレットで、ひらがなカタカナあいさつ身体の標準的文字盤4つがセットになった『文字盤4』(このページのトップ画像)を試してもらいました。準備した10インチと7インチの2種類のタブレットで試してみるとどちらも簡単な説明だけでじきにひと通り操作できました。結局電動車いすのテーブルにちょうどいい大きさの7インチを使うことになりました。またこのWeb文字盤に関心をお持ちで、お話を聞くとそれまで使っていた携帯電話ではいろいろな不便があるのでこれが解決できるとうれしいということでした。

このようないきさつでモニター役が決まりました。まずはじめはこの『文字盤4』をしばらく使ってもらい日常の取扱に問題がないことを確認しました。この方はすでに自分の携帯電話を使用しておられたのでタブレットの取扱も、充電なども自分で問題なくできました。また使用したタブレット(Google、nexus7、2013年モデル)は当初電動車いすに固定するための台が必要ではないかと予想していました。しかし実際にやってみると滑り止めマットを敷いてテーブルの上においておくだけで特に落下など心配もなく一連の操作も問題なくできることが確認できました。

本来なら安心してタブレットを使っていけるように例えば落下防止など様々な準備が必要になると思います。しかしこの人は非常に取り扱いが慎重で危なげもありませんでしたので、これらは必要なしと判断できました。おかげで円滑にすすめることができました。

4 第一回のおわりに 市販品を使うメリット

タブレットをお渡ししてすぐに使い始めることができました。スイッチが使いにくいとか、滑りやすく持ちにくいとか、動作がおかしくなったりなど、おかしな出来事はまるでありませんでした。とてもラッキーだったと思いました。

しかし本当はこれはタブレットの商品としての完成度がとても高かったから、つまり重さとかたち、表面の手触り、スイッチの作りなど多くの経験とノウハウに基づいて設計製造されていたからと考えるべきでしょう。多くの人々に受け入れられる誰が使っても不満や問題になりにくい完成された商品(どこかの誰かの苦労の結晶)を利用したのがここで問題が起きなかった最大の理由だと思います。

ものつくりに取り組むとついつい全部作りたくなりがちですが、既にあるものを取り込み活用することも大切です。


2020/08/21 公開

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