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障害をもつこどもたちのためのおもちゃ 17

サウンドスイッチの機能拡張

できるかな??声で複数のスイッチを使い分ける

舌をだすしろいいぬ

0 はじめに

これまで声や音で操作できるスイッチを紹介しました。 皆さんお試しいただけましたか。いかがだったでしょうか?

私もずいぶんたくさん試運転してみました(つまりおもちゃで遊んでみました)このままでもそれなりに動きますが、まだまだ改善を加えれば、用途も能力も伸びる余地があるようです。

手でボタンを押すという、日常私達が普段何気なくやっている動作も、不自由を抱えるひとにとってむつかしいことがあります。 例えば、ボタンに手が届かない。ボタンがよく見えない。押す力が足りない。ふるえて目標が定まらない。タイミングが合わない。押したら離せない。すぐ疲れてしまう。 そのような不便があっても、声ならなんとかなりそうだということもあります。

なんとかなりそうな声はおおよその目安として次のような特徴があると考えられます。
声の大きさと質が毎回ほぼそろっている。 出したいときに出し、止めたいときに止められる。 (反対に表現すると、出したいのに出ない、止めたいのに止まらないということが少ないかない) タイミングよく出せる。そして疲れにくい。

以上のようなことがらをふまえながら、前回のサンプルを試してみてください。 うまくできたとかできないとかに注目しすぎると気づきにくいその人の声についていろいろ観察できると思います。今回はそこがポイントになります。

1 サウンドスイッチの拡張

さて前回のサンプルでは使用できるスイッチはひとつです。 スイッチが使えないより人からみればずいぶんましですが、それでも二個三個と使えると具体的にできることが増えてきます。

これをテレビを例に説明します。テレビでは電源オンオフはスイッチひとつでできます。チャンネル変更は上げか下げのどちらかひとつあればすべてのチャンネルを選べます。しかし音量調整は上げると下げるの両方できないとずいぶん都合が悪いことになります。誰かに頼むことなく、テレビを自由に見るためにはこの4つのスイッチが使えるとかなり満足感が高くなります。

この例のようにスイッチの数は、自由とか不自由、満足とか不満に影響する要点になります。そこで今回は、声で複数のスイッチを使いこなす方法について考えてみます。

2 今回の試作品その1

まず一番目のサンプルです。

長い声ならほえて、短い声なら甘えるしろいいぬ

「あー」と声を長くかけるとワンとほえます。「あ」と短く声をかけるとクーンと甘えます。声の代わりに口笛でもできます。 ことばではこれ以上説明しようがありませんので、みなさん実際にお試しください。初めての方は前々回の記事にあります「3つの注意事項」を参考にしてマイクの準備などもやってください。

このサンプルでは、プログラムで音のはじまりと終わりを検知して時間を測っています。そして計測した時間が基準よりも長いか短いか判断して、二種類の鳴き声を出しわけています。このように声や音の長さを変更すると動きを選ぶことができます。

3 今回の試作品その2

続いて二番目のサンプルです。

声が三回ならほえて、二回なら甘えて、一回なら舌を出すしろいいぬ(このページトップ画像参照)

どうな動きをするかもうおわかりですよね。こちらも動かしてみてください。

このサンプルでは、はじめて音が入って3秒間、音の数を数えます。3秒後に回数に応じた動作をして初めにもどります。ですから一回声をかけて3秒待たないと動きません。

4 おわりに

サウンドスイッチはソフトウエア(プログラム)なのでこの間の作業はかなり円滑に、かつほとんど費用もかからず進めることができました。もし手作り電気工作だったらもっと時間も手間も費用もかかっただろうと思います。また皆さんに試していただくこともできなかったでしょう。ここが今回の取り組みの特徴です。

長い音と短い音の区別基準など使う人に合わせるところですので、これも手作り電気工作で実際に作るなら色々悩むこともあります。しかしプログラムでは、後の手直しが簡単ですので、仮の決定でサンプルを作ることができます。これも仕事を進めやすい、現場向きの特徴だと思います。生産性はかなり上がります。

三番目は複数のスイッチを使い分けることで発生するトレードオフ(いいことがあるとどこかでうまくないことがおきること)です。

今回の2種類の方法で試作品をつくってみました。ここでもし一番目のサンプルの長音単音を、もし長音中音単音の3種類にしたらどうなるでしょう。さらに4種類、5種類としたらどうなるでしょう。だんだん(と言うよりどんどん)発声の負担が重くなります。また理解や記憶の負担も大きくなります。

普通の生活をしている人なら、少々練習すればできるかもしれません。 しかし普通でない生活が長かったひとの場合はむつかしいかもしれません。

このように身体的負担を軽くしようとしたら、その他の負担が重くなることがあります。言葉を変えるとある負担とひきかえに別の負担を背負い込んでいるのです。 軽くなる負担にはみなさん関心を持たれますが、どこかでそのつけが回っているわけです。

例えばサウンドスイッチは声が出れば使えると単純に思い込むひと(すでに思い込んでいるひとはかなりいるだろうなあ)はこのような身体的、知的な負担の増加に気がつかないことも多いようです。

ですから、何かのはずみで
「こんなこともできないの?わからないの?」とか
「これじゃあだめだ」などの暴言が飛び出さないように十分注意してください。

サウンドスイッチへの理解とお使いになる方への配慮をもった大人の対応を期待します。

また、しろいいぬはただのおもちゃですから、うまくいかなくてもきにしないでください。


2022/07/08 公開

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