かならずお読みください注意事項

障害をもつこどもたちのためのおもちゃ 23

覚醒と外界への注意 のおもちゃ

放送大学 肢体不自由児の教育 タイトル画面

0 はじめに

ある日、自宅で放送大学の肢体不自由児の教育(’20)を見ていました。

この講義では、肢体不自由特別支援学校での児童生徒や職員の学校での日常生活が紹介されました。このような現場の動画は個人情報保護などのためか、最近では見る機会がとても少なくなりました。しかしNHKや放送大学などの番組では、守るべき規則はきちんと守り、手間のかかる画像処理もきちんと行い、手間ひまかけてしっかり放送してくれます。このようにして、時に興味深い動画を見ることができます。またこれらの放送は録画でき、被写体への説明や同意などの法的な手続きも適正に行われている(はず)なので2次利用も安心してできます。

思えばその昔、このあたりはかなりいい加減で学会や研究会などでかんたんなモザイクも被写体の同意もあるかないかの写真や動画が映し出されることもありました。さすが今どきは会場での録画や撮影は禁止があたりまえ、ごくごく限られた条件でないと見ることはできなくなっています。この結果、放送は貴重な情報源となりました。この分野に関心をお持ちの方はどうぞお試しください。

さて、この放送を見ていたら下のようなスライドが表示されました。

自他理解など社会的関わりの基礎の発達 スライド

このスライドでは、6番目がコミュニケーションなどの意思疎通です。

これまでいろいろなおもちゃを作って紹介してきましたが、それらはいずれもこの分類の3番目の『対象物との二項関係』の段階以降に該当するものです。 おもちゃを作りはじめたときは、できるだけ初期から使えるものをと考えていたのですが、この講義の説明でさらに初期の段階があることに気が付きました。たしかに私のこどもも生まれたばかりのころは寝てばかりでした。寝てばかりの赤ん坊もふつう何週間かすれば、あっちをみたりこっちを見たりするようになりますが、場合によってはそれが長く続いたり、なかなかぬけだせなかったりすることもあります。 また 成人の場合でも何らかの原因で、意識が低下し低覚醒の状態になりその後いきつもどりつし、コミュニケーション支援で苦戦した経験もあります。

これがきっかけになり、コミュニケーション支援の下準備として、『覚醒と外界への注意』を促す取り組みの必要性を再認識することになりました。

1 覚醒と外界への注意

ウトウトしている人の覚醒を促し注意を引くために、何かを見せたり音を聞かせたりすることが考えられます。

ただその相手に応じて見せるものや聞かせる音を適切に選ぶ必要があります。 よく知られているように、乳児の視力はとても低く、どの色でも同じように見えるわけではありません。聴覚の方も同様です。通常では生まれたばかりのひとはおとなとは違った見え方聞こえ方をするのです。

また、何らかの原因で脳にトラブルがあると問題はさらに複雑になります。 ものが見えてわかるということは単に目だけの働きではありません。まぶたを開く、眼球を目標に向ける、ピントを合わせる、といった眼球の働きに続いて、画像が視神経を通じて脳に伝わり、見えるものの形や色を認識し、判断する脳の働きが関係してきます。 脳梗塞などにより、『失認』という見えているけどわからなくなることがあります。 そして何よりも脳の働きはまだまだほとんど明らかになっていません。

このような事情がありますので、対象となる人がどのように見えているのか聞こえているのかを予め確かめておくようにしたいものです。

もしその人が普通に見えている聞こえているという前提でいると、散々努力をしたあとでそれらがすべて無駄だったことがわかることもあります。 反対に、もしかしたらこの人は随分違う見え方をしているのかもしれないと考えるところから道が開けることもあります。 このような経験もありますので、視野の確認にははやめにとりかかることをおすすめします。

このような話をしなくても、 眼の前にいるのに自分に気がついてくれないとか、 立ち位置によって反応に差があるとか。 このようなことを経験した方もおられるのではないかと思います。 もしかしたら、そのときあなたは視野の外にいたのかもしれません。そうなると背後にいるのと同じですので意思疎通などあなりうまくいかないことでしょう。

自分の事情をうまく表現できない人が相手の場合には これを見つけてうまくカバーできると、通じることでき。 また周囲の他の人たちにこれを知らせることから、信頼関係につながるようになるでしょう。

2 今回の試作品と使い方

今回作成したのは画面が点滅する試作品です。試しに赤、緑、黄色の3種類作ってみました。それぞれ起動すると黒い画面が表示されます。そこでクリック(スマホではタップ)すると点滅が始まります。止めるときはもう一度クリック(タップ)してください。
黄色点滅おもちゃ
赤点滅おもちゃ
緑点滅おもちゃ

これをタブレットやスマホで起動し、相手の人にかざして眼球の動き、首の動き、体の動きの反応を観察します。右に左に、上に下に、近づいたり離れたりしてして観察します。基本は視界の外からはじめて、徐々に中にはいりどこまで行ったら見えるかをつかみます。(このソフトはパソコンでも動きますが、このような用途ですからスマホやタブレットが使いやすいでしょう)

いいおとなが点滅するスマホをかざしておどりを踊っているのですから『覚醒と外界への注意』はかなり促されます。もしこれが見えれば何かの反応が期待できるでしょう。もし反応が見られないとなるとすこし心配です。

そこまでいかなくても、その人にとって見えやすい場所や見えにくいところがわかってくることもあります。ちょうどよい離れ具合もおなじです。 またある場所にスマホをかざすとなぜか見る時に体をひねるなどしたら注意しましょう。苦手な場所なのかもしれません。

なにかやるときはこのような苦手な場所は避け、見えやすい場所を利用するようにすれば、それだけでもその人の負担も減ってずいぶん楽になると思います。なによりその人の苦労していることを周りが正しく理解することが大切です。

また左右のアンバランスなどあるようなら、医療的対応や相談が必要になるかもしれません。

3 おわりに

『覚醒と外界への注意』の取り組みとして、スマホを使ったかんたんな道具と方法を紹介しました。いかがだったでしょうか。

コミュニケーションエイドやパソコン操作がうまくいかない原因のひとつが見にくいことだったりします。暗すぎるとか明るすぎる(まぶしい)とか、角度が悪いとか、眼鏡があっていないとか、頑張ればできるけどすぐに疲れてしまうとかいろいろあります。多分うまく見えているだろうと周囲は思っていたのに実はそうじゃなかった。気の毒なことになるまえにこんなところには早く気づいてあげてたいものです。

PaPeRo

認知機能低下高齢者の生活支援ロボットPaPeRoは、かわいい外見にもかかわらずちょっと低い声で話します。これはこのような高齢者のみなさんは低い声のほうがわかりやすいという研究結果によるものです。このようにものの見え方や聞こえ方には他の人にはわかりにくい、(ご本人にもわかりにくい)他の人には説明しにくいところがあります。 とくに元気な人に比べて余力が少なく無理のきかない人には、苦労少なく省エネでできるようなこころづかいが大切だと思います。

参考URL


2023/03/23 公開

研究企画課リハ工学科にもどる ←もくじはこちらです