この記事は、「エンチャント文字盤を利用した よく見えない そんな場合の対応」の続きです。はじめに、 こちらをお読みください。
15.6インチノートパソコンに上の画像のように、エンチャント文字盤の50音文字盤の改造版を表示し操作の練習を開始した。
そのときの患者さんは、 オーバーベッドテーブルの上に下の写真の様に固定したノートパソコンを見上げる姿勢でベッド臥位をとり、体側に置いたトラックボールを右手で操作し、マウスカーソルをうごかし目的の文字をクリックしして一文字づつ入力した。 はじめは名前、次に住所、次に家族の名前、これだけで数日かかった。
手指の動きは限られたが、トラックボールの操作やクリックも手探りでできた。 しかし視野が狭く眼球運動も首の動きも限られたので、「画面表示がよく見えるか」がおもな問題になり、視野の中に入るようパソコンの位置あわせが重要だった
それから約1ヶ月、 この間、安定した座位が保てるようになり、上肢の可動範囲も広がってきた。 そこで座位でテーブル上のパソコンに向かう姿勢を変更した。ここから20分程度まで作業持続時間が伸び、入力速度も倍増してきた。その間も見え方は十分とは言えず、上記の改造版の文字も十分によく見えず、疲労の苦労が続いた。
この段階でコミュニケーションは成立していたので、いろいろ打開策について相談することができた。その結果、50音文字盤を2分割し2画面切りかえ式にし、その分ひとつの文字を大きく表示する方式を試すことになり、下のような試作品を作成した。
試行の結果、文字表示の読み取りは楽になったが、文字盤切りかえの手間が加わったため入力には時間がかかるようになった。よく見えて目の負担がすくないこの方法でいきましょうかと話がまとまりかけた。
訓練開始当初、見える範囲は顔のまえの手のひらほどの面積だけで眼球も首も動きが少なく、手の動く範囲は体側と腹部から顔にかけてで、いくらか持ち上げ指サインができるが長く続けられなかった。 ペチャラの操作も限られ、長い文はできなかった。書字は手探りで数文字のみで判読困難も多くその時点では実用的でないと判断された。
しかし約一か月経過し はじめの頃よりも安定した座位が可能になり、上肢の運動が改善されていることと、 眼球もいくらか動くようになり、首の動きも少しできるようになり、 限られた視野を動かしてより広い範囲を見ることができるようになってきた。 上の試作品もタブレットで利用できるかもしれないと考えていた。
この試作品での練習を開始する前に、念のため書字を試してみた。すると少し練習すると手元を見ながら読み取り可能な文字を実用的な早さでさらさらと2,3行書くことができて二人して驚いた。 あまりに上手で早いので、もはやコミュニケーションエイドはお呼びでないのはすぐわかった。
ご本人も「手書きの方がいい」とさらりとお書きになった。
このような経過で、コミュニケーションエイドの試みはここで中止しこれ以降、文字を書く練習に取り組むことになった。
まず期間が限られたなかで、患者さんにとってよい結果にたどり着けてよかった。 この間、ほかの訓練が行われていたので、何がよかったのかはわからないが、 ここでご紹介した取り組みもいくらかでも役に立てたのではないかと思う。
なによりも、十分でなくても何とか見える道具を準備し取り組みを続け、だんだん改善しているのをご本人と確認できたことがよかったと思う。
せっかくつくったが出番がなくなったエンチャント文字盤だが、次の出番もあると思う。今回作成したものは、 サンプルのページに追加したので、試していただきたい。
2017/09/08 公開
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