失敗の部屋
うまくいったことばかりご紹介してきましたが,もちろん数多くのミス,思い違い,失敗をこれまでしています.怒られたり,あきれられたりしました.お金も時間もずいぶん無駄にしてしまいました.ここでは同じ失敗を皆さんが繰り返さないために,いくつかの失敗例をご紹介したいと思います.
その1 さわるとナースコールがなるベッド柵
もくろみ
ベッドを離れるときに,ベッド柵を引き抜かず,またぎ越す方がおられます.これでは月ヶ瀬離床センサでは,対応できません.そこで,ベッド柵にさわるだけでナースコールがならせないかと考えました.さわるといえばタッチセンサと考え,ベッド柵の上に電極をつけ,パシフィックサプライのタッチセンサにつなぎました.結果
初めはうまくいったのですが,病室を変更したら,動作しなくなりました.感度調整をいくらがんばってもうまく決まりません.また使用する方によって,時刻によって,鳴ったり鳴らなかったりしました.これでは目的に合いません.結局ボツになりました.こんな信頼のおけないものに,この仕事をさせるわけにないきません.
今にして思えば,ベッド柵の上につけた電極がアンテナになって,周囲の機械のノイズを拾い,使用する人の生体電気信号が埋もれてしまったのでしょうか?タッチ式スイッチの電極を大きくしたり,配線を延長すると動作が不安定になるという話は,他でもよく聞きます.難しいものです.
ACアダプタの線をベッドのキャスタで踏んで切ったり,リクライニングで電線を引きちぎったり,金具をねじ曲げたりいろいろありました.しかし,このもくろみは,結局テープスイッチ型離床センサにつながることができました.
その2 手触りのよい車いすハンドリム
もくろみ
「ステンレス製のハンドリムに触ると,ひんやりして,とたんに手がうまく動かなくなる」
とのお話をある方からうかがいました.別のある人から起毛加工というものを教えてもらいました.観光バスにはビロードのような手触りの内装が使われています.あれは布ではなく,樹脂の繊維を静電気で付け,接着しているとのことでした.金属にも加工できるとのことで,早速試作品を手配しました.
できあがった試作品は,外見上とても高級感がありました.手触りもソフトで想像以上の仕上がりでした.実際車いすに取り付けて動かしてみると,手の滑りが若干あるので,スポーティーな操作にはあまり向きませんが,見た目の豪華さ(?)はある意味車いす離れしていました.(ただしハンドリムだけです)結果
ポタージュスープをべたべたにつけて,乾燥させ,水をつけてたわしでごしごし洗うと,損傷もほとんどなく,かなりきれいになりました.食べこぼし等の汚れをこのように落としても大丈夫なようでした.カッターナイフではさすがに削れますが,かなりの手間がかかります.
かなり気をよくして,病棟に投入しました.何ヶ月かして戻ってくると,小さな傷がいくつか付いているだけでした.次もそうでした.さらに試作品を製作し,テスト車両の台数を増やしました.
ある日,病棟で,車いすのハンドリムを手すりやベッド柵やドアにゴリゴリこすりつけながら,動き回っている人がいました.ボロボロでした.結局ボツになりました.木製の車いすが市販されています.お尋ねしてみると,ホテルなどに来客用として引き合いがあるのだそうです.なるほど,上品そうな高齢のご婦人をお乗せし,ホテルマンが押して,しずしずとカーペットの上を進むのにぴったりのエレガントさがあります.まちがっても,前輪上げの練習で,失敗してひっくり返ったり,○○会館の入り口に置いてあるぼろぼろの車いすとは,同一視してはいけないのです.
車いすに乗る人や使い方を限定できない使用環境では,この種の改善は価値はあっても存続していけません.起毛加工は,きっぱりお蔵入りにしました.しかし,起毛加工はハンドリムなど他とこすれ合う部分の耐久性に問題がありますが,フレームなどなら問題ないと思われます.従来にない異色の車いすができると思います.興味のある方はどうぞ.
その3 車いすハンドリムの滑り止め
もくろみ
握力が足りない方は,ハンドリムに玉やバーをつけ,指を引っかけて車いすを操作します.この車いすに乗ってみると,手の機能がある程度以上あると結構これらがじゃまなものであることがわかります.通常のハンドリムでは,引っかかりが少ない,しかし玉付きハンドリムでは引っかかりが多すぎて邪魔だという方は,もちろんおられます.通常の商品だと,玉の直径が1ミリ刻みに何種類もあって,お客さんのお好みのままにとなるのですが,この場合選択の余地はほとんどありません.
市販品では,ゴム引きハンドリムなどあります.過去にお使いになったことがある方にお伺いしてみると,「まあぼちぼち役にたちます.ただ壊れやすいのと,高いことが問題です」最後の一言が特に利きました.
結果
自分で作ってみることにしました.樹脂関係のお仕事をされている方から,株式会社コバヤシのコバゾールを教えてもらいました.当院には装具用の電気炉がありますので,これを使うことにしました.
できました.美しく仕上げるには,さらに練習が必要ですが,ハンドリム1本が300円程度の材料でできました.使ってみると外見以外は市販品と遜色ありませんでした.しかし病棟に出すと,1年から2年くらいでボロボロになりました.これも市販品と同じと思われます.ハンドリムはバンパなのです.
負け惜しみ
ボロボロになったハンドリムを見ると,いろいろなことが見えてきます.まず外周部の打ち傷です.角の部分にぶつけたのでしょうか,金属表面まで届く深い小さな傷です.外縁部(タイヤと反対側)には壁などにこすれた跡もあります.それらの中間部分には,深く長い切り傷があります.何かに乗り上げたのでしょうか?しかし内周部と内縁部は無傷です.
ハンドリムをぶつけない訳にはいかないので,ぶつけても傷が付かない,大きくならない作り方を工夫すればよいわけです.現在再起に向け準備中です.
失敗してたくさん怒られましたが,時にははげましのお言葉をいただくこともあります.ありがたいことです.
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