月ヶ瀬離床センサ はじめに
看護師さん:「あなたのお身体はまだ十分に直っていないから,トイレに行きたくなっても,ひとりでベッドから出て行ってはいけませんよ.ナースコールを押してくれれば来ますから,一緒にトイレに行きましょうね」
患者さん:「はい,わかりましたよ」
という話になっていたのに,ひとりでトイレに行こうとして,転んでしまう事故があります.
当院でもこの問題にひどく悩まされました.このような事故などを防ぐために行われる身体拘束も社会的に批判を受けています.どうしたら良いのでしょう.
ここでは,上のような問題に対して当院で行っている取り組みについて紹介します.
基本的な考え方
転倒事故を防ぐためには色々な方法が考えられます.転倒のおそれがある方が,立ち上がろうとした時にその動作ができないようにするのもその一つです.身体を拘束したり,高いベッド柵で囲んだり,ベッド柵が抜けないようにすることもこれにあたります.また転倒しても怪我をしにくくするために,床面にマットを敷いたり,空間を明けて家具などへの衝突を防ぐ工夫もあります.これらの工夫を重ねても,いつ事故が起こるかと精神的緊張を強いられているのが現場の看護師さんたちです.
対象となる方が転倒する前に,すかさず知らせることができれば,この問題はいくらか改善されます.幸いにも当院のナースコールシステムは,2000年春に改修され,ボタンを押すと看護師さんが身につけているPHS(携帯電話のようなもの)の画面に部屋番号とベッド番号が表示されるようになりました.何かが起きそうになったらナースコールのスイッチが自動的にはいるような工夫をすれば良いわけです.
事前調査
まず,同様な市販品がないか調査を開始しました.探してみると,いうなるハイテク?を利用した商品が色々見つかりました.しかし心配な点もありました.それは看護師さんたちが使いこなせるだろうかということです.電池切れに気がつくだろうか?故障に気がつくだろうか?『何日かごとに電池交換』,『故障していないか毎日試運転して点検する』などの業務が加わるとかえって忙しくなるのではないか?どんなに優れた道具でも,みんなにメリットがないと生きません.
ある看護師さん:「この機械,うまく動かないんですが故障でしょうか?」
私:「電池が逆ですね」看護師さんは,一般的に機械に弱い人が多いようです.
またよく理解できない,使いこなせない装置を導入し,これに過剰に頼り切ったため,緊張感が一気にゆるんで大事故になることは,どの世界でもよくあることです.また市販品の多くがかなり高価だったことも気になりました.
月ヶ瀬リハセンターの取り組み
そんなとき,離床センサという言葉をある冊子で見つけました.
富田豊/離床センサー/離床センサー/認知障害/静岡県
リハ病院,老人施設などでは麻痺があるにも関わらず,単独でベッドから離れ転倒し,時には骨折にいたって寝たきりになる患者がいる.このような患者には口頭でベッドから離れるときはナースコールをするように伝えてあるが認知障害のため,指示を実行できないことも多い.
そこで今回,洗濯バサミを利用した離床センサーを試作し,実際にリハ病院で使用した.構造は下図に示すように2つの紐から出来ている.1つの紐の一端をベッド柵に結ぶ.他端にはプラスチックタグがついている.もう1つのひもの一端はベッド柵に結ぶ.他端には洗濯バサミがついている.タグを洗濯バサミでつまみ,ベッド柵間でピンと張るように紐の長さを調節する.
患者がベッドから下りようとして紐を押すと洗濯バサミがはずれ,洗濯バサミの先端に取り付けた電極が接触し,ナースコールがなる.または,患者の服を洗濯バサミでつまみ,患者がベッドから離れると同様にナースコールがなる.
慶応大学月ヶ瀬リハビリテーションセンター,東京都リハビリテーションセンター,小田原市立病院,国立療養所東埼玉病院,国立療養所村山病院で使用している.好評である.
(日本リハビリテーション工学協会主催 福祉機器コンテスト'99,p34,本文中の『下図』は掲載されていない)何というシンプルさ!これこそ解決の糸口か?
試作とその結果
早速,試作品を製作し,当院の病棟師長さんと相談し,ある方で試してみることにしました.その結果,
1.仕組みが簡単なのにちゃんと動く
2.使い方にさらなる工夫の余地が大きい
3.その方はあまり気にしない
4.問題の全てを解決できないだろうが,かなりの効果が期待できる
ということがわかりました.いよいよ本格的に始動です.
この洗濯バサミ式離床センサには,発案者の皆さんに敬意を表し,「月ヶ瀬離床センサ」と命名しました.
本ページ開設にあたり,ご相談を差し上げましたところ,こころよくご承諾いただきました,富田豊先生に感謝申し上げます.
03/05/15 公開