たべもの、地名など外出の際に使うことばを集めました
これまで3回にわたりWeb文字盤のモニター調査についてお話ししてきました。その中で効果音や文字の消去方法の改善について説明しました。このほかにも細かな改善や不具合の修正も行いました。そのいくつかはモニターさんのユーザ目線のおかげで見つかりました。もはやモニターさんには感謝あるのみです。
これらの改善や修正はより多くの人々が様々な用途に利用できるようにするため、つまり汎用性を高めるためのものです。たとえば、Web文字盤4では、漢字をほとんど使わずひらがなとカタカナを使用しています。これも小学校低学年から漢字がよく見えない人まで(もちろんそのほかのひとたちも含んで)幅広く使ってもらえることを目指しています。このほかにも表示の見やすさや音や声の聞きやすさも汎用性を高める改良です。バリアフリーやユニバーサルデザインに似た考え方です。
このような改善の他に、使う人の好みや事情に合わせた改善も必要になることがあります。 本来、多くの場面でコミュニケーションはきわめて個人的なもので家族でもひとりひとりでかなり違います。またある程度の年齢なら、場面や相手によって使うことばも話す調子も使い分けて内容も変わるのが普通です。
もし日頃から口数が少なく必要なことしか話さないような人なら50音文字盤で一文字づつ入力しても、ご不満は少ないのかもしれません。その一方で、おしゃべりが好きな人は、50音文字盤のように時間がかかってスピードもタイミングも自由にならない方法では、『これもう少し何とかならないの?』と感じることでしょう。
よく使うことば、たとえば家族など親しい人の名前、身近な地名、好きな食べ物の名前などがより簡単に入力できると、コミュニケーションエイドの使い勝手が大きく改善されます。(少なくとも50音文字盤よりもストレスが小さくなります。)手作りの透明文字盤ではこのようなよく使うことばを追加して使いやすくした例はよく見られます。
コミュニケーションエイドでも同じようにできたらずいぶん助かることと思います。これがコミュニケーションエイドを手作りしようと考えた理由のひとつです。しかしだからといって単純にことばを追加していったら色々困ることもおきるでしょう。そのためにはどんな工夫や改善が必要でしょうか。今回はそんなことを考えていくことにしましょう。
モニター調査でタブレットを使い始めて1ヶ月たちました。モニターさんに『文字盤4』を日々の生活で使ってもらうことで、ご本人も周囲も徐々にWeb文字盤を使った会話に慣れてきました。そこでこのタイミングで『文字盤4』で足りない、追加したい言葉について考えてもらうことにしました。
モニターさんはWeb文字盤を使用することでそれまでと生活がいくらか変化しました。それまでうまくいかなかったことも完全ではありませんがある程度できるようになりました。これから先どんな場面でどんな会話ができるようになるのか、そして会話したくなるのかを想像してそのとき使いたいことば(台詞、せりふ)を考えてもらいました。実はこれはなかなか手間のかかる作業ですが一面ではずいぶん楽しんでもらえたようです。
このようなリクエストを伝えるにはタイミングが肝心です。新しい道具を使って色々やってみて、できることもできないことも(可能性も限界も)ある程度わかるようにならないとこんなリクエストされても困るでしょう。だんだん使い慣れて加減もわかってきて『こんな場面でこんな風に言いたいなあ』と想像してもらうところがはじまりです。しかしこれには時間がずいぶんかかります。今回も、すこしづつゆっくり考えてもらうことにしました。すると数語から十語ほどのことばが記されたメモが1,2週間にひとつ届きました。(何しろこの時期、コロナのため会えませんでした)これを何回もゆっくりゆっくりと続けていきました。
まず、地名が出て来ました。富山市中心部の地名や商業施設の名前がいくつか出て来ました。もしかしたらよく出かける、あるいはこれから出かけたい場所でしょうか。続いて食べ物の名前もいくつか出て来ました。たぶんお好きな食べ物でしょう。女性らしいですね。つづいて利用している施設職員や友人の名前、かかりつけの医師の名前などならびました。
より多くの人の使いやすさを考えた『文字盤4』とは異なり、そのひとが使いたいことばをそろえた文字盤を作ろうとしています。こんな文字盤もあれば入力が円滑になり会話もはずむことでしょう。手作り透明文字盤でことばを追加するのと同じことをWeb文字盤でもやろうとしています。
オーダーメイド福祉機器はある種の理想です。タブレットを使用し市販品のメリットを享受しつつこちらのオーダーメイドをどこまで追求し実現できるかが、今回のテーマとなります。
モニターさんお気に入りのことばがほどよく集まりましたのでこれらを使う場面ごとにまとめて2つの文字盤をつくりました。人の名前と診察の時に使うことばをまとめた「人医」文字盤とたべものとあいさつをまとめた「食あ」文字盤(このページのトップ画像)です。(これらは、 Web文字盤10 マルチWeb文字盤 に紹介してあります。)
これで、標準的用途の『文字盤4』のひらがな、カタカナ、あいさつ、からだの四種類の汎用文字盤に、二種類のモニターさん個人用文字盤が加わりました。これら六種類の文字盤をどんな具合に使ったらいいでしょうか。
これらの文字盤をひとつにまとめて切り替えて使う方法がまず考えられます。操作がシンプルですがこれでは文字盤の切り替えにやや手間がかかります。さらに文字盤が増えたらこれは随分使いにくくなるでしょう。
また、Aさんの文字盤aとBさんの文字盤bをCくんが試そうとする場合など既存の文字盤を活用するには分けておいたほうが仕事がやりやすいでしょう。
またコミュニケーションは相手や場面ごとに変わり台詞も同じではありませんので、その都度必要に応じて文字盤を取り出したり片付けたりできると、タブレット等の機械に負担がかかりません。(メモリやストレージや時間も節約できるでしょう)このような理由で標準的4文字盤と個人的2文字盤は、使いやすさのため別々にしました。
さらに今後、こども用、大人用、おしゃべり用、仕事用などいろいろなバリエーションを展開していくことを考慮すると、いくつかの文字盤をグループ化してそれらを切り替えて使用する機能が必要になってきました。これがマルチ文字盤機能です。 この動作がわかるYouTube動画はこちらでご覧いただけます。(3分19秒 音が出ます)
この動画ではパソコンで2種類のWeb文字盤を使用しています。画面が広ければもっとたくさんでも使用できます。これはまるで、何人もの人がそれぞれ違う透明文字盤を持って目の前に並んでいるようなもので、限られたポイント数(クリックやタップなどの回数)でかなり速い発話が期待できるでしょう。
さて、ここまでモニターさんには標準的4種の文字盤『文字盤4』だけを使ってもらいましたが、ここから二つの文字盤も加えて使ってもらうことになりました。マルチ文字盤機能の切り替え操作も簡単な説明と練習ですぐに理解し使いこなせるようになりました。これまで50音文字盤をつかいひと文字づつ入力していた「よく使うことば」がワンタッチでできると好評でした。
重い病気になりご自宅で療養されている方を訪問した際に、工夫をこらした透明文字盤を見せていただくことがあります。それぞれ特色があり、それを使った会話の様子が伺われるようです。またご家族の呼び名が個性的なこともあります。
「以前からこう呼び合っていたので…」
「それ、とてもいいですね」
こんなことがきっかけになってコミュニケーションエイドを作り始めました。誰もやっていないようなので、自分で始めました。 その後いろいろ試しながら、これまでなかったいくつかのことができるようになりました。
その人専用のコミュニケーションエイドを作るのが今回の目標ですが、これもまんざらやってできないものでもないようです。
2020/10/9 公開
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