もし近くに車いすユーザがいて、 その人の助けになりたい、力になりたいとおもったとき、 あなたは何をしたらいいのだろうか?
車いすには介助者用ブレーキやチルト操作やリクライニング操作にワイヤを使っていることが多い。これは自転車のブレーキ部品を利用していることは外観からもわかる。
風雨にさらされサビによる劣化がある自転車とは違い、車いすではワイヤのトラブルは非常にまれである。しかしリクライニング機構のワイヤが破損するとバックレストの上げ下げができなくなりかなり困ったことになる。
最近、この非常にまれなワイヤ交換の修理をしたので、記録のためにまとめておくことにする。
リクライニング車いすのワイヤには基本的にそれほど荷重のかかることはない。 しかしリクライニングを起こすときに自転車のブレーキレバーを握った両手でバックサポートを持ち上げようとすると、ワイヤに必要以上に強い力がかかりその結果切ってしまうことがある。(上の写真のように)
患者さんを深い角度から起こす場合は、バックサポートを肩などで支えて持ち上げ、握る力はほどほどにしておくとこのような破損を防止することができる。しかしこれに気がつくのは、やってしまったあとであることが多い。今回もインナーワイヤはサビもなくきれいな状態で切れた。
切れたワイヤは修理ができないので新品に交換する。自転車のブレーキワイヤ修理用の交換用ワイヤがホームセンターなどで入手できる。写真のワイヤも交換用で、長さ146cmで320円の値札がついている。
今回破損したのはインナーワイヤだけなので、必要な長さを切り取って交換することにした。アウターワイヤ(ワイヤが中をとおる管状のガイド)は傷みも見られないのでそのまま使うことにした。 破損した古いワイヤは65センチだった。交換用ワイヤをタイコ(ブレーキレバーに取り付けるための円筒形金属のこと)から65センチのところで切断する。この種のワイヤは熱処理してあるので、ペンチなどで力任せに切るのは簡単ではない。場合によっては工具の刃を傷めることもあるので注意した方がいい。
熱処理 ステンレスなど鉄系金属は高温から急速に冷却する(これを焼きを入れるという)と硬度が増す性質がある。刀鍛冶が真っ赤に焼けた鉄を水に入れて冷やすのはこれである。焼きを入れると鉄は固く曲がりにくくなり限界を超えるとポッキリ折れる。高温からゆっくり冷やすと焼きをもどすという。この作業で鉄を柔軟に曲がりやすく、折れにくくするできる。加熱温度と冷却温度、その時間を調整することで様々な特徴を持つ鉄を作ることができる。
ワイヤをペンチで切るまえに、ライターなどで加熱しゆっくり冷やして焼きをもどすと切断が容易になる。
破損したワイヤを新しいワイヤに交換し、遊びを調整すると完成だ。
今回の作業時間は30分程度だった。ワイヤ部品の手持ちといくらかの工具があればこのくらいの費用と時間で修理はできる。これを業者などに依頼すると何日かの時間と相応の費用がかる。しかもその期間、患者さんに使って頂く車いすを用意するのが簡単ではない。このようなやり方をすれば、ちょっとまっててくださいね。さあできました。ありがとう。といった具合に患者さんとの信頼にもつなげることができると思う。
さて、80センチ以上残ったワイヤはタイコがついていないのでこのままでは使用できない。しかしこのワイヤにタイコをつければ次の修理にも使用できる。この話はまた次の機会に譲ることにする。